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東京地方裁判所 平成8年(ワ)11033号 判決

原告 株式会社東日本銀行

右代表者代表取締役 吉居時哉

右訴訟代理人弁護士 三好徹

同 高久尚彦

被告 齋藤健司

右訴訟代理人弁護士 勝山勝弘

主文

一  被告は、原告に対し、金六六二二万四四三九円及び内金五七四八万三〇二七円に対する平成一一年一月一四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告は、原告に対し、金六六三七万五三四二円及び内金五八二三万六三一九円に対する平成一〇年一二月一八日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、深野工業株式会社(以下「深野工業」という。)との間において銀行取引契約を締結し、被告は右銀行取引契約に基づく深野工業の債務を元本六〇〇〇万円の限度で連帯保証したところ、深野工業に対し、右銀行取引契約に基づき手形貸付の方法により六〇〇〇万円を貸し付けたと主張し、被告に対し、右連帯保証契約に基づき、右貸金残金と遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実

1  原告は、平成元年二月一日、深野工業との間において、次の内容の銀行取引契約(以下「本件銀行取引契約」という。)を締結した(甲一、一九、証人内田克俊)。

(一) 証書貸付、手形貸付、手形割引、当座貸越、支払承諾、保証取引、その他一切の取引に関して生じた債務の履行については、この契約に従う。

(二) 深野工業が手形によって貸付を受けた場合には、原告は手形債権又は貸金債権のいずれによっても請求することができる。

(三) 深野工業が債務を履行しなかった場合は、原告に対し支払うべき金額に対し年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金を支払う。

(四) 深野工業が原告に現在差し入れている担保及び将来差し入れる担保は、全て、その担保する債務のほか、深野工業が現在及び将来負担する一切の債務を共通に担保する。

(五) 深野工業について破産の申立て、手形交換所の取引停止処分があった場合は、原告からの通知催告がなくとも、深野工業は原告に対する一切の債務につき当然に期限の利益を失う。

(六) 弁済又は預金との相殺の場合、債務全額を消滅させるに足りないときは、原告は適当と認める順序方法により充当することができる。

2  原告は、本件銀行取引契約に基づき、平成六年一二月二六日、深野工業に対し、手形貸付の方法により、六〇〇〇万円を、弁済期を平成七年三月一日と定めて貸し付けた(以下「本件貸金契約」という。甲一五の1、一七、一九、六〇のうち深野工業作成部分、証人内田克俊)。

3  原告は、右貸付けの際、右貸金債権を担保するため、深野工業から、金額を六〇〇〇万円、支払期日を平成七年三月一日、振出日を平成六年一二月二六日とする約束手形一通(以下「本件手形」という。)の振出を受けた(甲一五の1、一七、一九、六〇のうち深野工業作成部分、証人内田克俊)。

4  原告は、深野工業の要請により、本件貸金契約に基づく債務元金の弁済期を延期し、本件手形を書き換えていたところ、平成七年九月二九日、深野工業との間において、本件貸金契約に基づく債務元金の弁済期を平成八年三月一日と合意し、これに応じて手形を書き換えた(甲三、一五の2、3、一七、一九、証人内田克俊)。

5  深野工業は、平成七年一一月三〇日、銀行取引停止処分を受けた(争いがない。)。

6  原告は、被告に対し、その主張の連帯保証契約に基づき、後記二の7のとおり、配当の受領及び充当を主張し、本件貸金残元金五八二三万六三一九円及び確定遅延損害金残金八一三万九〇二三円の合計六六三七万五三四二円並びに本件貸金残元金五八二三万六三一九円に対する破産配当の日の翌日である平成一〇年一二月一八日から支払済みまで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている。

二  本件の争点

1  被告の連帯保証の有無

(原告の主張)

被告は、平成五年四月二六日、原告との間において、本件銀行取引契約に基づく深野工業の債務を元本六〇〇〇万円の限度で連帯保証する旨の契約を締結した(以下「本件連帯保証契約」という。)。

(被告の認否)

被告は、平成五年四月二六日、原告蒲田支店が深野工業に対し手形貸付の方法により二五〇〇万円を貸し付ける際、二五〇〇万円の範囲で連帯保証したにすぎない。被告は、当時の同支店融資課長内田克俊(以下「内田」という。)らから、枠取りのためであるから極度額の金額を六〇〇〇万円と記載するように言われ、その言を信じ、保証書と思われる書面(B五版一枚のもの。甲二の保証書とは異なる書面)に署名押印し、極度額の金額欄に六〇〇〇万円と記載したのである。

2  被告の心裡留保の有無

(被告の主張)

被告は、本件連帯保証契約締結の際、内田から、枠取りのためであると言われてその説明を信じ、被告が手形保証した二五〇〇万円の約束手形債務を限度として保証する意思であり、本件連帯保証契約を締結する意思がなかったにもかかわらず、本件連帯保証契約締結の意思表示をしたのであり、内田は、これを知っていた。したがって、被告の本件連帯保証契約締結の意思表示は、心裡留保により無効である。

(原告の認否)

右事実は否認する。

3  被告の錯誤の有無

(被告の主張)

内田らは、本件連帯保証契約締結の際、被告に対し、枠取りのためではないにもかかわらず、枠取りのためであると誤った説明をするとともに、その当時、深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したにもかかわらず、その事実を被告に説明しないで秘匿したものであり、被告は、これらの事実を知っていたならば、本件連帯保証契約締結の意思表示をすることはなかった。したがって、被告の本件連帯保証契約締結の意思表示は、その要素に錯誤があり、無効である。

(原告の認否)

右事実のうち、本件連帯保証契約締結の当時、原告の深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したこと、内田らが本件連帯保証契約締結の際被告に対し右事実を被告に説明しなかったことは認め、その余の事実は否認する。

4  内田らの詐欺の有無

(被告の主張)

(一) 内田らは、本件連帯保証契約締結の際、被告に対し、その当時、深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したにもかかわらず、その事実を被告に説明しないで秘匿し、かつ、本件連帯保証契約が枠取りのためではないにもかかわらず、枠取りのためであり、短期の特定の債務である約束手形の金額が保証金額である旨虚偽の事実を述べて、被告を欺き、その旨誤信させ、本件連帯保証契約締結の意思表示をさせた。

(二) 被告は、原告に対し、平成一二年一月二五日の本件口頭弁論期日において、本件連帯保証契約締結の意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(原告の認否)

右(一)の事実のうち、本件連帯保証契約締結の当時、原告の深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したこと、内田が本件連帯保証契約締結の際被告に対し右事実を被告に説明しなかったことは認め、その余の事実は否認する。

5  保証期間の終了の有無

(被告の主張)

本件連帯保証契約は、平成六年四月二五日をもって終了している。

(原告の認否)

右事実は否認する。

6  利息の天引の有無と本件貸金契約の元金

(原告の主張)

本件貸金契約には弁済期までの利息の天引の合意があり、原告は本件貸金契約締結の際に利息を天引したが、天引額は利息制限法の範囲内である。したがって、本件貸金契約においては、六〇〇〇万円を元金として利息、損害金を計算すべきである。

(被告の主張)

原告は、本件貸金契約及びその弁済期の延期の際に利息を天引したから、六〇〇〇万円を元金とすべきではない。

7  配当金の充当関係

(原告の主張)

(一) 原告は、深野工業に対し、本件銀行取引契約に基づく債権として、平成九年一一月当時、別紙1配当金明細記載の債権を有していた。右各債権は、いずれも深野工業が平成七年一一月三〇日銀行取引停止処分を受けたことにより期限の利益を喪失したものである。

(二) 原告は、東京地方裁判所平成七年(ケ)第五一六四号不動産競売事件において、七七七七万三四五〇円の配当を受け、同配当金明細記載のとおり、深野工業に対して有する各債権に案分し、本件貸金契約に基づく債務に充当すべき一八二四万一四八九円につき、平成七年一二月二日から平成九年一一月一七日まで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金一六四七万七八〇八円に先ず充当し、残余の一七六万三六八一円を元金に充当した。

(三) 原告は、平成一〇年一二月一七日、東京地方裁判所平成七年(フ)第三五二五号破産事件において、二九一万七〇二四円の配当を受け、同配当金明細記載のとおり、深野工業に対して有する各債権に案分し、本件貸金契約に基づく債務に充当すべき六八万四一七八円につき、平成九年一一月一八日から平成一〇年一二月一七日まで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金八八二万三二〇一円の一部に充当した。

(被告の主張)

右事実は知らない。

不動産競売事件における配当については、民法四八九条ないし四九一条の規定に従って充当すべきであり、破産事件における配当については、破産債権である元金に先に充当すべきであり、劣後債権である損害金に充当すべきではない。

また、不動産競売事件の対象であった不動産を任意に売却した場合にも、民法四八九条ないし四九一条の規定に従って充当すべきである。

8  信義則違反ないし権利濫用の有無

(被告の主張)

(一) 原告は、深野工業に対し、平成六年一二月二六日以降、三億〇一六九万四〇九一円を貸し付けているのであり、本件連帯保証契約締結の際に被告が想定した責任の範囲を遙かに超えた巨額の金員の貸付がされている。

(二) 原告は、深野工業の経営状態が悪化するなどの事情を知り得る立場にあったのに、被告に対し、深野工業の経営状態の悪化や右のような深野工業に対する取引額の増大について全く知らせなかった。

(三) したがって、原告の本訴請求は、信義則に違反し、権利の濫用として許されない。

(原告の認否及び反論)

右事実は否認する。

原告は、本件連帯保証契約締結後、深野工業に対する貸付額等を増大させたことはない。被告は、平成六年三月一二日以降破産に至るまで深野工業の監査役であり、同社の収支状況等の内部事情について熟知していた。

第三当裁判所の判断

一  文書の成立について

1  筆跡について

鑑定人鳩山茂(以下「鳩山鑑定人」という。)の鑑定の結果によれば、鳩山鑑定人は、甲第二号証(本件連帯保証契約の保証書)、甲第六〇号証(金額六〇〇〇万円、支払期日平成七年三月一日の約束手形)、甲第一〇号証(借入申込書)、甲第一二号証(借入申込書)及び甲第一四号証(借入申込書。右各文書を以下「鑑定資料」という。)の被告の筆跡と、いずれも被告の自署に係る訴訟委任状(本件記録中のもの)、宣誓書(被告本人調書添付のもの)及び出廷者カード(本件記録中のもの。右各文書を以下「対照資料」という。)の被告の筆跡とは、筆跡特徴の類似性が高く、筆跡特徴に恒常性が認められ、同一人の筆跡とみるのが妥当であるとしている。同鑑定の結果によれば、鳩山鑑定人は、その根拠として、鑑定資料の被告の筆跡と対照資料の被告の筆跡の特徴を検討したうえ、文字相互の形状、大きさ、配字行の安定性、字画線条の形状に同様の傾向を示し、筆勢について、筆の勢いがあって滑らかであり、渋滞、震え等は認められず、筆圧について、全体的な圧力、字画相互の圧力などがともに比較的強い特徴を示しているとし、さらに、氏名の各文字について詳細に検討し、対照資料の被告の筆跡にみられる多くの特徴が鑑定資料の被告の筆跡に現れているとしている。

これに対し、乙第三二号証(森岡恒舟(以下「森岡」という。)作成の反論書)によれば、森岡は、鑑定資料の被告の筆跡と対照資料の被告の筆跡とは、別人の筆跡であるとしている。乙第三二号証によれば、森岡は、氏名の各文字について、鳩山鑑定人が指摘している、対照資料の被告の筆跡にみられる多くの特徴が鑑定資料の被告の筆跡に現れていることは肯定しながらも、鑑定資料の被告の筆跡は自己の筆跡ではないとの被告の主張に鑑み、鑑定資料の被告の筆跡は被告の自署による筆跡を精巧に模倣した可能性があることを前提とし、より細部の異同をチェックすべきであるとの立場に立って、より細部の点に差異がみられるとして、前者は後者とは別人の筆跡としていることが認められる。

しかし、偽筆には筆勢の不自然さや運筆の渋滞等がみられるのが通常であるから、鑑定資料の被告の筆跡にこれらがみられることが、鑑定資料の被告の筆跡が被告の自署による筆跡を精巧に模倣した可能性があることの前提になるものといわなければならないところ、乙第三二号証には、森岡が鑑定資料の被告の筆跡にこれらがみられるかにつき検討した様子は窺えない。かえって、鳩山鑑定人の鑑定の結果によれば、鑑定資料の被告の筆跡には、右のとおり、筆勢の不自然さや運筆の渋滞等はみられないことが認められる。そうすると、乙第三二号証の記載は容易に採用できない。また、乙第二二号証(森岡作成の鑑定書)の記載も容易に採用できない。

また、本件訴訟の経過に徴すると、被告は、当初から甲第二号証の成立の真正を認めていたところ、平成一一年三月一六日の本件口頭弁論期日における被告本人尋問において、その成立の真正を否定するに至ったのである。

したがって、鑑定資料の被告の筆跡は、対照資料の被告の筆跡と同一であり、被告の自署によるものと認められる。

2  印影について

鳩山鑑定人の鑑定の結果によれば、鳩山鑑定人は、甲第二号証(本件連帯保証契約の契約書)及び甲第六〇号証(金額六〇〇〇万円の約束手形)の被告の印影と、甲第五号証(被告の印鑑登録証明書)及び乙第三一号証の被告の印影とは、各輪郭線の大きさ、輪郭線と印文字の接する位置、配置の状態及び字画相互の構成等について、一致した特徴を示しており、同一の印影と認められるとしていることが認められる。

3  文書の成立について

右によれば、甲第二号証(本件連帯保証契約の保証書)、甲第六〇号証(金額六〇〇〇万円、支払期日平成七年三月一日の約束手形)、甲第一〇号証(借入申込書)、甲第一二号証(借入申込書)及び甲第一四号証(借入申込書)の被告作成部分は、いずれも被告がその氏名を自署したものであって、真正に成立したものと認められる。

二  被告の連帯保証の有無について

証拠(甲一、二、一九、乙一二、証人内田、被告本人(一部))によれば、被告は、平成五年四月二六日、原告との間において、本件連帯保証契約を締結したことが認められる。

被告は、本人尋問において、同日、原告蒲田支店が深野工業に対し手形貸付の方法により二五〇〇万円を貸し付けるに当たり、保証の趣旨で金額二五〇〇万円の約束手形の表面に署名押印したこと、その際、同支店融資課長内田らから、枠取りのためであるから極度額の金額を六〇〇〇万円と記載するように言われ、その言を信じ、保証書と思われる書面(B五版一枚のもの。甲二の保証書とは異なる書面)に署名押印し、極度額の金額欄に六〇〇〇万円と記載したことを供述し、乙第一二号証(原告作成の陳述書)にも同旨の供述記載がある。

しかし、証拠(甲七の1、一七、一九、三五の1、2、四一の1ないし7、乙二〇、証人内田)によれば、原告蒲田支店が同日深野工業に対して行った手形貸付は、六〇〇〇万円の手形貸付であり、同日及びこれに近接する数日間に二五〇〇万円の手形貸付は行われた形跡がないことが認められる。また、証人内田は、被告に対し、被告の連帯保証が枠取りのためであると述べたことを強く否定する証言をしている。そして、被告作成名義の平成五年四月二六日付け保証書(本件連帯保証契約の保証書)の連帯保証人欄の被告の氏名が被告の自署によるものと認められることは前記一判示のとおりである。

したがって、被告の右供述及び乙第一二号証の供述記載は容易に採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  心裡留保、錯誤の有無及び詐欺の有無について

1  被告は、本件連帯保証契約締結の際、内田から、枠取りのためであると言われてその説明を信じ、被告が手形保証した二五〇〇万円の約束手形債務を限度として保証する意思であり、本件連帯保証契約を締結する意思がなかったと主張する。そして、被告は、本人尋問において、前記二のとおり、被告の右主張に沿う供述をしており、乙第一二号証にも同旨の供述記載がある。

しかし、被告の右供述及び乙第一二号証の供述記載が容易に採用できないことは、前記二判示のとおりである。

したがって、被告の心裡留保の主張は、この点において既に理由がない。

2  被告は、内田らが、本件連帯保証契約締結の際、被告に対し、その当時、深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したにもかかわらず、その事実を被告に説明しないで秘匿し、被告を欺いたものであり、被告は、右事実を知っていたならば、本件連帯保証契約締結の意思表示をすることはなかったと主張する。

本件連帯保証契約締結の当時、原告の深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在したこと、内田らが本件連帯保証契約締結の際原告に対し右事実を被告に説明しなかったことは当事者間に争いがない。

前記二の事実と証拠(甲一九、五九、乙一二、証人内田、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、深野工業は、遊技用機械の製造及び遊技場内装設備設計施工等を目的とする会社であり、主としてパチンコ玉の補給機の製造販売を行っていたが、平成五年四月当時は、パチンコ店の内装工事等の請負を行っていたこと、被告は、東洋精密株式会社(以下「東洋精密」という。)の代表取締役として同社の経営を行っていること、東洋精密は、不動産賃貸業等を目的とする会社であり、銀行等との間において銀行取引契約等を締結し、継続的な金融取引を行っていること、被告は、東洋精密が依頼していた会計事務所と深野工業が依頼していた会計事務所とが同一であったことなどから、深野工業の代表取締役であった大島昭(以下「大島」という。)と個人的な交際もあったこと、被告は、平成五年四月、大島から、深野工業が原告から貸付を受けるにつき連帯保証することを依頼されてこれを承諾したこと、被告は、同月二六日、大島とともに、原告蒲田支店に赴き、内田らと面接し、本件連帯保証契約を締結したこと、その際、被告は、内田らに対し、深野工業の原告に対する債務額等につき何ら質問をしなかったし、内田らや大島から、被告に対し、その説明もなかったことが認められる。

右事実によれば、被告は、本件連帯保証契約締結の際、内田らに対し、深野工業の原告に対する債務額等につき何ら質問をしていないのであるから、内田らが被告に対しこれを積極的に説明する義務があるということはできないし、被告が深野工業に対する債務が多額であるならば本件連帯保証契約を締結しないとの趣旨を表示したものということもできない。そして、被告は、東洋精密の代表取締役として同社を経営し、銀行等との間において銀行取引契約等を締結して継続的な金融取引を行っていたのであるから、大島が被告に対し連帯保証を依頼した際、深野工業の原告に対する債務が相当多額であり、深野工業が既に原告に提供していた物的、人的担保だけでは担保力に不足するおそれがあることを理解できたものということができる。

そうすると、被告が、本件連帯保証契約締結の際、内田らに対し、深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在するならば、本件連帯保証契約を締結しないとの動機を表示したものと認めることはできないし、内田らが、その際、被告に対し、深野工業に対する当座貸越額が一億円以上存在することを説明しなかったことをもって、被告を欺いたものということもできない。

したがって、被告の錯誤及び詐欺の主張は、この点及び右1の点に照らして理由がない。

四  本件連帯保証契約の終了について

証拠(甲二)によれば、本件連帯保証契約には保証期間の定めがないことが認められる。そして、本件連帯保証契約について保証期間を平成六年四月二五日までとする旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の右主張は理由がない。

五  利息の天引等について

原告が本件貸金契約締結の際に利息を天引したことは当事者間に争いがなく、証拠(証人内田)によれば、本件貸金契約には利息の天引の合意があったことが認められる。

利息制限法二条は、利息の天引について、天引額が債務者の受領額を元本として同法一条一項に規定する利率により計算した金額を超える場合について規定しているから、天引額が債務者の受領額を元本として同法一条一項に規定する利率により計算した金額を超えない場合には、たとえ、天引額が債務者の受領額を元本として約定利率により計算した金額を超えるときであっても、その超過部分が元本の支払に充てたものとみなされることはない。

証拠(甲一五の1ないし3、四一の52、60、75)によれば、原告は、本件貸金契約締結の際、六〇〇〇万円に対する平成六年一二月二六日から平成七年三月一日まで約定の年五・七五パーセントの割合による利息六二万三八三五円を天引し、深野工業に対し、五九三七万六一六五円を交付したこと、原告は、平成七年三月二七日、手形書換の際、翌二八日から同年六月一日まで約定の年五・七五パーセントの割合による利息六二万三八三五円の前払を受けたこと(なお、その際、延滞利息の支払をも受けている。)、原告は、同年九月二九日、手形書換の際、翌三〇日から同年一二月一日まで約定の年五・七五パーセントの割合による利息五九万五四七九円の前払を受けたこと(なお、その際、延滞利息の支払をも受けている。)が認められる。右事実によると、右の利息の天引額、前払額は、深野工業の受領額ないし利息の前払額を差し引いた残額を元本としてその利率を計算すると、年五・八一一パーセントを下回るものであって、利息制限法一条一項に規定する利率を超えるものではない。そして、本件貸金契約において、他の手形書換があったとしても、右と同様であると推認することができる。

したがって、本件貸金契約においては、六〇〇〇万円を元金として利息、損害金を計算することとなる。

七  配当金の充当について

1  前記第二の一の事実と証拠(甲二九、三二、四三、四四、乙一の1ないし19)によれば、原告は、深野工業に対し、本件銀行取引契約に基づく債権として、平成九年一一月当時、別紙2充当関係一覧表の<1>競売前残高欄記載の債権を有していたこと、右各債権は、いずれも深野工業が平成七年一一月三〇日銀行取引停止処分を受けたことにより期限の利益を喪失し、その遅延損害金の利率は年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)であることが認められる。

2  証拠(甲四五)によれば、原告は、東京地方裁判所平成七年(ケ)第五一六四号不動産競売事件において、平成九年一一月一四日の配当期日において、七七七七万三四五〇円の配当を受けるべきものとされたことが認められる。

不動産競売手続における配当金が同一担保権者の有する数個の被担保権の全てを消滅させるに足りない場合には、弁済充当の指定に関する特約があっても、その配当金は、配当期日において、民法四八九条ないし四九一条の規定に従って、右数個の債権に充当されるべきものと解される。

右1の事実によれば、右各債権元金に対する平成七年一二月二日(原告主張の始期)から平成九年一一月一四日までの遅延損害金は、同一覧表の<2>競売配当時損害金欄記載のとおり、合計六九九五万九二七九円であるから(各遅延損害金の計算は円未満切捨による。)、右配当金は、民法四九一条の規定の順序に従い、先ず遅延損害金に同額が充当され、残余の七八一万四一七一円が右各債権の元金に充当される。そして、右七八一万四一七一円は右各債権の元金の全てを消滅させるに足りないから、民法四八九条の規定の順序に従って充当されるところ、右1の事実によると、右各債権はいずれも弁済期にあり、深野工業のために弁済の利益が同じであるから、右各債権の元金に案分して充当され、充当額は同一覧表の<3>元金充当額欄記載のとおりとなり(充当額の計算は円未満四捨五入によるが、端数処理の関係から債権番号2については円未満切捨による。)、右各債権の残元金は同一覧表の<4>競売配当金充当後元金欄記載のとおりとなる。

3  証拠(甲六一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成一一年一月一三日、東京地方裁判所平成七年(フ)第三五二五号破産事件において、二九一万七〇二四円の配当を受けたことが認められる。

破産管財人が配当の際にどのように充当の指定を行ったかを認めるに足りる証拠はないが、破産手続における配当は、破産法二五八条の規定に従って行われるものであるから、破産宣告後の遅延損害金については劣後的破産債権として他の破産債権に後れて配当されるべきものである。原告主張の遅延損害金が破産宣告後の遅延損害金であることは原告の主張に照らして明らかであるから、右配当金は右各債権の元金に充当されるべきものである。

右配当金は右各債権の元金の全てを消滅させるに足りないから、民法四八九条の規定の順序に従って充当されるところ、右1のとおり、右各債権はいずれも弁済期にあり、深野工業のために弁済の利益が同じであるから、右各債権の元金に案分して充当され、充当額は同一覧表の<5>破産配当金充当額欄記載のとおりとなり(充当額の計算は円未満四捨五入によるが、端数処理の関係から債権番号5については円未満切上による。)、右各債権の残元金は同一覧表の<6>破産配当金充当後元金欄記載のとおりとなる。

そして、本件貸金の平成九年一一月一五日から平成一一年一月一三日までの間の遅延損害金は、同一覧表の<7>破産配当時損害金欄記載のとおりとなる。

4  なお、被告は、不動産競売事件の対象であった不動産を任意に売却した場合にも、民法四八九条ないし四九一条の規定に従って充当すべきであると主張するが、そのように解すべき根拠は存しない。

5  右によれば、破産事件の配当後における本件貸金の残元金は五七四八万三〇二七円であり、配当時の確定遅延損害金は九四八万二〇五一円となる(計算は円未満切捨による。)。

八  信義則違反ないし権利濫用の有無について

前記三の2の事実と証拠(甲二九、三二、五八の1ないし3、五九、六〇、乙一の1ないし19、一二、証人内田、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成五年四月末日当時、深野工業に対し、割引手形買戻債権五三八六万円、手形貸付債権一億九八〇〇万円、証書貸付債権二億二五二〇万一九〇〇円、当座貸越債権一億〇九六〇万円及び支払承諾債権三八九五万円、合計六億二五六一万一九〇〇円を有していたこと、深野工業は、平成七年一二月二五日、東京地方裁判所において破産宣告を受けたこと、原告は、その当時、深野工業に対し、元金合計五億二三三四万六六五五円の債権を有していたこと、被告は、平成六年三月一二日、深野工業の監査役に就任し、同社の破産までその地位にあったこと、被告は、本件貸金契約の際に、その担保のために振り出された金額六〇〇〇万円の約束手形(甲六〇)に手形保証をしたことが認められる。

右事実によれば、原告の深野工業に対する債権は平成五年四月末日当時と同社の破産当時とで大差はなく、被告は、平成六年三月一二日以降は、深野工業の監査役として、同社の営業状態、財務内容を知り得ることができたものであり、また、本件貸金契約は被告が承知しているものであるということができる。

右事実によれば、原告の本訴請求が信義則に違反し、権利濫用に当たると認めることはできない。

そして、他に原告の本訴請求が信義則に違反し、権利濫用に当たると認めるに足りる証拠はない。

九  認容額について

以上によれば、本訴請求の認容額は次のとおりとなる。

1  本件貸金残元金 五七四八万三〇二七円

2  確定遅延損害金  八七四万一四一二円

(一) 競売配当日の翌日の平成九年一一月一五日から原告主張の平成一〇年一二月一七日までの遅延損害金

八一三万九〇二三円(原告の請求額による。)

(二) 競売配当金充当後元金五八一六万七二〇七円に対する平成一〇年一二月一八日から破産配当日の平成一一年一月一三日までの遅延損害金

六〇万二三八九円(計算は円未満切捨による。)

(原告の請求の範囲内である。)

3  遅延損害金

本件貸金残元金五七四八万三〇二七円に対する破産配当日の翌日の平成一一年一月一四日から支払済みまで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金

第四結論

よって、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 丸山昌一)

別紙<省略>

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